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KC成就法

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「カーラチャクラ」成就法の行法次第

ダライ・ラマ14世法王が世界各地で大灌頂を厳修なさっていることから、チベット密教の中で最も有名になっている「カーラチャクラ(時輪)」について、その生起次第成就法の行法の流れを整理してみました。
これは、宗祖ツォンカパ大師の直弟子であるケートゥプ大師ゲレク・ペルサンがまとめた『カーラチャクラ御身語心円満具足曼荼羅成就法・プンダリーカ口伝』を参照し、行法の要点を概観したものです。「カーラチャクラ」については、宗祖御自身が成就法をお説きになっていないため、この『プンダリーカ口伝』が、ゲルク派の成就法根本典籍になると思われます。
本稿は、あくまで行法の要点を列挙して流れを示しただけですから、これによって実際に修行することはできません。しかし、『真言道次第広論(ガクリム・チェンモ)』などで密教(特に無上瑜伽タントラ)の基本を学んでいれば、この流れを見ただけで、「カーラチャクラの成就法では、どういう修行をするのか」ということが、大筋で把握できるはずです。
「カーラチャクラ」をはじめ、何らかの無上瑜伽タントラの大灌頂を受法していれば、この行法の中身をより具体的に学ぶことができます。しかし、これを本尊ヨーガとして実修する場合は、必ず「カーラチャクラ」自体の大灌頂を受けていなければいけません。
「カーラチャクラ」は、社会的な意味あいの強い教えで、世界平和の祈りが込められていることもあり、なるべく大勢の所化を集めて灌頂した方がよいとされています。そのため、灌頂受者の多くがこうした本格的な成就法を修行することは、もともと想定されていません。法王御自身も、「カーラチャクラそのものより、前行法話として授ける教え(2012年1月のブッダガヤに於ける大灌頂では『修習次第』など)の方が大切だ」という意味のことを、よくおっしゃっています。従って、「カーラチャクラ」大灌頂を受法された方は、まず前行御法話の内容をよく復習し、「六座グルヨーガ」を通じて菩薩戒や三昧耶戒を保持することが最も肝要です。そのうえで、もしさらに余裕があれば、こうした成就法を少しづつ学修してゆくとよいでしょう。
「グヒヤサマージャ(秘密集会)」等の無上瑜伽タントラを本格的に学修している方にとっては、それらの行法との比較対照という意味で、本稿の内容は役にたつと思います。

『カーラチャクラ御身語心円満具足曼荼羅成就法・プンダリーカ口伝』
による実修の流れ

【守護輪の儀軌】
前行として二資糧を積集→正行として守護輪を修習→トルマ奉献と撥遣

【成就法の本体の前行】
自己を一面二臂のカーラチャクラとして観想→一切の仏菩薩をカーラチャクラ曼荼羅の行相で眼前に勧請→供養など→空性の修習→

【所依曼荼羅の生起】
虚空無辺の法源の中に四大種の輪を重ねる→その上に須弥山→その頂上の中心に雑色蓮華→その臍に月輪→その上に日輪→その上に羅睺と計都→それらが一つに集まってhksmlvryam字となる→再びそれらの文字より虚空・風・火・水・地・須弥山・蓮華・月・日・羅睺・計都が生じる→それらの上に金剛幕→
その中に四角四門の御身曼荼羅の壁→その中に半分の寸法で御語曼荼羅の壁→その中に半分の寸法で御心曼荼羅の壁→その中に半分の寸法で四角い智輪→その中で半分の寸法の四角の中心に八葉蓮華→その中心に月・日・羅睺・計都の輪を重ねて座とする→

御身語心円満具足カーラチャクラ曼荼羅;ダラムサラ時輪堂の壁画
御身語心円満具足カーラチャクラ曼荼羅(ダラムサラ時輪堂の壁画)

【主尊父母と八母尊の生起】
その上に月輪→その上に母音とされる三十二文字を布置→その月輪の下へ日輪→その上に子音とされる八十文字を布置→月輪の中心に中有の識たるhum字→それとともに乗り物の持命風たるhi字→月輪と日輪とこの二文字が一つに混じってhum字となる→それが転変してカーラチャクラ(四面二十四臂)→
phrem字と湾刀より明妃ヴィシュヴァマーター(四面八臂)→

カーラチャクラ父母尊;ポタラ宮のタンカ
主尊父母(ポタラ宮のタンカ)

八葉蓮華の花弁にクリシュナディープターなど八母尊を三儀軌で生起→

【眷属諸尊の生起】
主尊父母が等至に入る→主尊の蘊・界・根・境の本質が諸尊として顕現したものを流出→ヴィシュヴァマーターの体内へ入ってから再び流出→曼荼羅の輪の行相で主尊の頭頂から入る→※大楽の火で溶けて滴となり、金剛の道からヴィシュヴァマーターの蓮華へ→その滴の各部分から、阿閃など諸尊を三儀軌で生起→母尊の蓮華より流出して曼荼羅上の各々の座に安置

その内容の概略は、
【主尊父母】阿閃父母尊と金剛薩埵父母尊を主尊へ入れて一体化し、金剛界自在母の父母尊と般若波羅蜜母の父母尊をヴィシュヴァマーターへ入れて一体化する。
【智輪】不空成就など四組の父母尊を四角い智輪内の四方の座へ安置し、ターラーなど四組の父母尊を同じく四維の座へ安置する。
【御心曼荼羅】軍荼利など五組の忿怒父母尊を御心曼荼羅の四門と上の座へ安置。虚空蔵など四組の父母尊を四門の右の座へ安置。触金剛女など四組の父母尊を四維の座へ安置。金剛手など四組の父母尊を四門の左の座へ安置。

御心曼荼羅;ダラムサラ時輪堂の壁画
御心曼荼羅(ダラムサラ時輪堂の壁画)

【御語曼荼羅】チャルチカーの父母尊を御語曼荼羅の東の八葉蓮華の臍に安置し、怖畏母など八母尊を花弁に安置。以下順に、東南、南、南西、北、北東、西、西北の八葉蓮華に、中央の父母尊と眷属八母尊などを同様に安置。

御語曼荼羅と御身曼荼羅;ダラムサラ時輪堂の壁画
右の4つは御語曼荼羅の八葉蓮華、中央と左の6つは御身曼荼羅の三重蓮華(時輪堂壁画)

【御身曼荼羅】羅刹父母尊を御身曼荼羅の東門の右にある蓮華の臍に安置する。この蓮華は三重で、内の四花弁、中間の八花弁、外の十六花弁に、合計二十八の母尊を安置する。以下順に、東南隅、南門右、南西隅、北門右、北東隅、西門右、西北隅、北門左、西門左、東門左、南門左の三重蓮華にも、中央の父母尊と眷属二十八母尊などを同様に安置。ちなみに、東門右の三重蓮華はチベット暦三月、東南隅は四月、以下同様で西門左は十二月、東門左は一月、南門左は二月に相当。それぞれの三重蓮華に安置された諸尊は、各月の日を示している。
四方の門と上下にある車の蓮華に、ニーラダンダなど六組の忿怒父母尊を安置。

【有情の教化】
→その曼荼羅へ有情を鈎召して灌頂→有情らの蘊界処は曼荼羅諸尊の行相となる→有情らを各々の仏国土へ撥遣→甚だ清浄な慢を保持
《法源からここまで曼荼羅最勝王》

【主尊父母等の溶融と歌による勧請】
→チャンダリーの智の光輝で主尊父母と八母尊が溶融して滴になる→四無量心の本質たる智輪四維の四仏母が歌で勧請→溶融した諸尊を三儀軌で生起→

【三昧耶曼荼羅の流出】
主尊父母が等至に入る→曼荼羅の流出(曼荼羅最勝王で流出した諸尊の全てを、主尊上方の虚空へ勧請する。蘊界処などの本質たるそれらは、三昧耶曼荼羅を化作するために、再び主尊の頭頂から入る。そして、上記※印を付した箇所から曼荼羅最勝王の終わりまでの過程を、ここで再度修習する)→

【円満支分など】
智尊召入→灌頂と部主印証→三金剛加持→清浄の憶念
《ここまで羯磨最勝王》

→滴の瑜伽(下降の四歓喜)→
微細瑜伽(上昇の四歓喜)
《成就法本体の正行は、曼荼羅最勝王・羯磨最勝王・滴の瑜伽・微細瑜伽で、「四支の瑜伽」として整理される》

【結行次第】
→本尊の慢を保持→真言念誦→
供物加持→外供養→内供養の加持と奉献→礼賛→撥遣→祈願→吉祥賛



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カーラチャクラ曼荼羅について
この成就法で観想すべき曼荼羅は、御身語心円満具足曼荼羅(一番上の写真)である。ただそれだと、最も重要な中心部の寸法が相対的に極めて小さくなってしまうため、ダラムサラ大乗法院の時輪堂には、御心曼荼羅の部分だけを描いた壁画もある(三番めの写真)。御語曼荼羅と御身曼荼羅の各蓮華は、御身語心円満具足曼荼羅の中に一つ一つ描くことができないため、時輪堂では別の壁画として描かれている(一番下の写真)。成就法の修習では、これらを参考にしながら、御身語心円満具足曼荼羅の所定の位置に観想することになる(田中公明『曼荼羅イコノロジー』pp.238-239の図を参照すると分かりやすい)。

出典の解説
ケートゥプ・ゲレク・ペルサン『カーラチャクラ御身語心円満具足曼荼羅成就法・プンダリーカ口伝』dus 'khor sku gsung thugs yongs rdzogs dkyil 'khor sgrub thabs pad dkar zhal lung(Toh.5467)。「ケートゥプ・ジェ全集」タシールンポ版ca巻。典籍ごとのページ付番で、1a-52a。守護輪の儀軌が前半に別立されていて、成就法の本体は25b3以降。本稿では、守護輪儀軌の記述は、煩雑さを避けて大巾に簡略化した。
なお、行法の流れを見ても分かるように、例えば「曼荼羅最勝王」や「羯磨最勝王」の設定のしかたなど、他の無上瑜伽タントラとはかなり異なっている。そのように、「カーラチャクラ」の行法体系には、様々な面で他と共通しない特異な要素が多数見出される。しかし、大筋の流れを見るならば、「母音・子音の鬘や月輪・日輪などから主尊父母を生起し、また溶融した主尊父母を歌で勧請する」という点で、最もベーシックな生起次第の行法スタイルを踏襲しているともいえる。

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